韓国日記(その2)

2000年9月14日(第4日目)

目が覚める。今日も雨だ。バスに乗り大田駅へ行く。ソウルまでの切符を買う。まだ秋夕の混雑が続いているらしく、ムグンファ号の立ち席しか入手できない。途中駅からなので2時間の立ちんぼを覚悟する。発車まで30分もあるので、売店で牛乳を買って朝食の代わりにする。昨日買い忘れた入場券(1枚350ウォン)も購入する。乗車券は殆どオンライン券だが、入場券はまだ硬券が健在だ。改札口に並ぶ。列車案内板に手書きで遅延のお知らせが張り出されている。10分の遅れらしい。この混雑する時期に、釜山から3時間半かかるこの駅で10分の遅れなら上等だろう。

改札を抜けてホームへ出る。車内は一杯だ。デッキの通路で我慢する。ソウルの自宅へ帰る人が多いのだろう。実家で貰ったのか、ぶどうの箱が目につく。便所の前に陣取り、ソウルまでの2時間をここで過ごすことにする。頻繁に車内販売のワゴンが通る。そのたびに腹を引っ込める。韓服のおじさんが乗ってきて私の前に立つ。見るともなく観察する。韓服を着ているが、靴は普通の革靴を履いている。ちょっとちぐはぐな感じもするが、この天気では仕方ないだろう。上着も観察する。艶からしてシルクだろう。淡い色合いが上品だ。韓国文様が織り込まれている。

車掌が通る。通りすがりに「アプロ...」と言う。たぶん前の車両がすいているとでも言ったのだろう。今更移動するのも面倒なので、このまま立っていく。もう少しでソウルだ。

12時半頃、ソウル駅に着いた。まだ雨は降っている。今夜の宿を求めて、明洞まで歩く。まずは、サヴォイホテルに当たってみる。2泊したいがと言うと、今日と明日で違う部屋になるという。部屋を変わるのも面倒なので、断る。次にプリンスホテルへ行く。シングルルームで2泊できるというので、ここに決める。2泊で12万ウォン、場所を考えれば安い。

寝る場所も確保できたので、昼食を食べに出かける。明洞を歩きながら、結局チェーン店に入る。ナムルパプ(3800ウォン)を食べる。観光する気にならないので分断された鉄道に乗りに行こうと思いつく。時刻表を開いてみる。京義線と京元線とあるが、京義線は連結工事が始まったせいか、終点まで行けないようなので、京元線の新炭里に行くことにする。新炭里へは、地下鉄(厳密には国鉄区間)で議政府まで行き、さらに新炭里行きの列車に乗り換えることになる。明洞を通る地下鉄は4号線なので、遠回りになるがソウル駅で乗り換える。1号線に乗り、議政府で一旦改札を出る。改めて新炭里まで切符を買い列車に乗る。軍人がやたら多い。軍服姿なので、異様な雰囲気だ。改めて、特殊な地域へ向かう列車だと思い知らされる。17時20分、定刻通り発車する。新炭里まで約1時間20分だ。

新炭里切符 初めのうちは郊外の新興住宅地のような所を走る。東豆川を過ぎたころから、窓外に山間の田舎の風景が広がる。黒ヤギも見える。途中から憲兵のような出で立ちの軍人が乗ってくる。乗っている軍人達がごそごそと鞄の中から紙切れを取り出す。外出証の検閲だろうか。一般の乗客には目もくれず通り過ぎる。軍の施設らしきものが見え、一駅ごとに降りていく。新炭里に着くまでに車内は殆ど空っぽになった。

新炭里に着いた。駅前に一軒の店がある他は何もない駅前だ。折り返しの列車は20分後なので、駅前から離れられない。帰りの切符を買い、入場券はないか尋ねる。入場券はないという。出札のすぐ横にスタンプがおいてあるのが目に留まる。スタンプ帳なんて持ってきてないので、記念に時刻表の京元線のページに押す。ちょっとインクが薄いが、「チョルマヌン タリゴサッタ」(鉄馬は走りたい)と読める。この日が現実となることを祈る。

日が暮れた。駅舎とホームの照明以外何もなく真っ暗になる。列車に乗り、発車を待つ。高校生くらいの少年が近寄り、「・・・・・・」。急に言われても耳の準備ができていない。今度は「シゲ、シゲ」と言う。ああ時間か、と思い、時間を教える。二人だけの客を乗せて、列車は暗闇の中を走る。

腹が減ってきた。議政府の駅前に出てみる。駅前は繁華街ではないらしく、食堂も見あたらない。ファストフードでは済ませたくないので、明洞まで戻ることにする。ホテル脇の路地裏の食堂へ行く。見覚えのある先客がいる。プルコギトッパプ(4000ウォン)を頼んでみる。文字通り焼肉丼だ。コンビニに寄り、飲み物を買う。あんパンを食べていたレジのお姉ちゃん、あわてて精算する。良かったら持っていって、とパンをくれる。ひとつ貰って帰る。ホテルに戻ると、さっきの顔がいる。見覚えがあったのは、ホテルのフロントとボーイだった。貰ったパンを出してみる。ポケモンパンだった。



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