韓国日記(その5)
2005年8月14日(第3日目)
今日は江陵まで移動するつもりでいる。バスは速くて本数もあり便利なのだが、やはり鉄道ファンとしては鉄道のあるところへはなるべく鉄道で行きたい。1日に1往復しかない江陵行きに乗るために早めにホテルをチェックアウトする。まずは昨日の「キムパ天国」に寄って朝ご飯。ピビンバ(3000ウォン)を食べて、お昼用にキムパを2本(2本で2000ウォン)買っておく。さらにコンビニに寄って飲み物とお菓子も仕入れる。これで万が一、車内販売がなくてもお昼の心配はなくなった。あとは東海南部線の東莱駅へ行くだけなのだが、地下鉄の東莱駅からは離れていて、大通りから奥へ入ったところにあると言うことしかわからない。たいした距離ではないのでタクシーで行っちゃおう。タクシーの運転手なら駅の場所も知っているだろうし。
早速通りかかったタクシーを捕まえて、東莱駅と告げる。地下鉄の東莱駅ではないので、列車だ、鉄道だ、と付け加えても、「地下鉄か?」と聞き直してくる。違う、列車の駅だと言ってもなかなか通じない。「キチャ(汽車)?」と返ってきた。そうだ、そうだ、汽車の駅だよ。簡単な単語が思い浮かばなかった。走り出せばあとは早い、この奥に駅があるとは思えないような路地をどんどん入っていくと、その奥に東莱駅があった。タクシー代2700ウォン、道に迷って歩き回ることを思えば安いものだ。物売りのおばちゃん達で一杯の駅前広場を抜けて駅舎へ。窓口で江陵までの切符を求める。東莱発9時19分のムグンファ号1688列車、江陵到着は17時47分、約8時間半の道中で運賃は26000ウォン。発車までまだ1時間もあるが、荷物もあるし待合室でおとなしくしている。次々と乗客が集まってきて、狭い待合室が一杯になった。定刻10分前に改札口が開き、ホームへ出る。海水浴に行く家族連れが殆どだ。列車に乗り込むとひと駅前の釜田駅が始発なのに、すでにかなりの座席がふさがっている。どこまで行くのか知らないが海水浴客が殆どで、浮き輪を持った子ども達や、クーラーボックスを持った若者のグループが目につく。隣の席には小学校1年生くらいの男の子、通路の向こうにお母さんと小学校4年生くらいのお姉ちゃん。お父さんは今日も仕事なのかそれらしい姿は見えない。斜め前の席は向き合いの座席に今風の若者3人組と、若者達と同じグループとは思えないおじさんがひとり。
海雲台、機張と停車するたびにお客が乗ってきて、車内は満席になった。時々見えていた海もまったく見えなくなった。列車は快調に走り、その間も頻繁に車内販売のワゴンが通る。蔚山を過ぎたあたりで、隣の子どもが母親にお菓子をねだりだした。目の前を頻繁にお菓子やジュースを載せたワゴンが行き来するのだから無理もない話だ。買って貰ったお菓子をお姉ちゃんと分けて、私にもひとつくれる。思いも寄らぬ行動にちょっと驚く。
斜め前の若者グループが持ってきた缶ビールを仲間に配り始めた。相席のおじさんにも配り、おつまみも渡している。斜め前の若者達もとなりの子どもも、たとえ見ず知らずの他人であっても、これが儒教の国韓国における「年長者」に対する正しい振る舞いなんだろうか。そんなことを考えているうちに、列車は慶州に停車した。
慶州を過ぎると、車内販売のワゴンが弁当を売りに来るようになった。車内に活気がよみがえる。朝買ってきたキムパを平らげるが2本では少し物足りない。3本買っておけば良かったと後悔する。満腹ではないが、程よい列車の振動で睡魔が襲ってくる。いつの間にか眠ってしまったのか、列車は険しい山の中を走っている。人家など全くないような所にも時々駅がある。突然、何もないところで列車が停止した、と思ったら後ずさりを始める。スイッチバックだ。嶺東線の道渓駅にスイッチバックがあるのは聞いていたが、ここだったんだ。電気機関車の重連に牽引された貨物列車と交換する。最後尾にはディーゼル機関車の補機もついている。韓国国鉄最大の難所だけあってわがムグンファ号もゆっくりと坂を下る。長かった山越えを終えて東海駅に到着、列車もほっと一息つくかのようにしばし停車する。ここで電気からディーゼル機関車に付け替えて江陵を目指す。
列車は日本海沿いを走る。砂浜が続き、海水浴場がある。そんな風景を遮るように有刺鉄線を載せたフェンスが延々と続いている。所々迷彩を施した警備小屋が作られている。ソウルや釜山にいる限り外国人(まして旅人)には平和に感じられるが、このような風景を目の当たりにすると、やはり準戦時下であることを改めて感じさせられる。
午後6時前、江陵駅に到着する。釜山で満席だったとは思えないくらい車内は閑散としている。改札を抜けて、出札窓口へ行き訪問記念の入場券を買い求める。カウンターに張り紙がしてあり、よく読んでみると観光キャンペーンで鉄道利用者は鏡浦台などが割引料金になるらしい。乗ってきた切符に証明のスタンプを貰っておく。
駅の近くに宿を決め、荷物を置いて夕食に出かける。駅の近くにあることになっているバスターミナルはどこかに移転したらしく、広大な空き地になっている。駅前といっても繁華街ではなく、比較的静かなところだ。それでも食堂やコンビニくらいはあるので、夕食を済ませて飲み物を買って帰る。宿の主人にバスターミナルの移転先を聞いてみると市庁(市役所)の近くで、タクシーで行っても2000ウォンくらいで行けるとのこと。バス乗り場へタクシーで行くのも変な話だが、2000ウォンで行けるならまあいいか。
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2009-1-13 作成
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